第9回日本医薬品安全性学会学術大会 読み込まれました

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The 9th Annual Meeting of Japan Society of Drug Safety

日本医薬品安全性学会学術大会

The 9th Annual Meeting of Japan Society of Drug Safety

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心不全への新たな治療戦略

心不全への新たな治療戦略

 心不全治療の目的は生命予後と生活の質(QOL)の改善であり、心不全の増悪因子の是正、全身の組織・主要臓器の障害の改善・悪化予防、そして神経体液系因子の異常を是正する治療となる。このためには心臓だけでなく併存疾患を含めた全身管理が必要になる。

 慢性心不全(収縮不全)の標準治療としては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)やβ遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の併用療法が確立している.これらの治療でも心不全症状が残存する場合は、ACE阻害薬(またはARB)をアンジオテンシン受容体ネプライシン阻害薬(ARNI)に切り替える。また、心不全悪化および心血管死のリスク低減を考慮してナトリウム/グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬も選択肢となる。さらに、洞調律かつ心拍数≧75bpmで左室駆出率≦35%の場合は心不全悪化および心血管死のリスク低減を考慮してイバブラジン追加も考慮する。

 2021年に発表されたヨーロッパ心臓病学会のガイドラインでは糖尿病の有無に係わらず、SGLT2阻害薬を心不全の標準治療に加えることが推奨されている。近年、SGLT2阻害薬(dapagliflozin,empagliflozin)は収縮不全の心不全患者に対し、心不全入院を減らすという抗心不全治療薬としてのエビデンスが示されたことは周知のごとくである。また、その効果として体液貯留を防ぎ、ループ利尿薬の必要性を減らし、腎機能への好影響も期待でき、早期から心不全増悪を抑制できる可能性がある。ARNIはACE阻害薬を上回る効果が示されており、ACE阻害薬/ARBを含む標準治療を行っても心不全症状が残存する例にはACE阻害薬/ARBからARNIに変換することも推奨されている。今後、これらACE阻害薬/ARNIおよびβ遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬が収縮不全の心不全患者に対する予後改善を目的とした基本治療として中核になってくる。一方、収縮能が保たれた心不全患者に対して予後改善のエビデンスがある薬物治療はまだ確立していない。この病態は複雑であり、高齢者が多いことなど多様な表現型を有していることが関係している。基本的には原因疾患や併存疾患に対する治療を行い、うっ血には利尿薬で対応しているのが現状である。最近、収縮能が保たれた心不全患者に対してもSGLT2阻害薬の有効性(心不全再入院を減少)が示され、今後期待されるところである。

 しかし、われわれが気をつけなければいけないことは安全性の問題である。例えばSGLT2阻害薬は脱水、尿路・会陰感染、ケトアシドーシスなど深刻な副作用を持ち合わせている。とくにエビデンスと称される大規模試験は条件が限られた患者のみを対象とした結果であり、実臨床に一般化できるかはまだこれからである。選択肢が増えたことにより治療の幅は広がったが、適切な患者に適切な薬をという姿勢を心掛けていく必要がある。

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