未来を担う小児の医薬安全の特殊性を考える
日本の未来を担うのは間違いなく小児であろう。我々はその未来を担う小児の薬物療法を預かる専門家として、小児薬物療法の安全性と有効性を堅持する責任があるのではないか。2022年、国内の出生数は年間80万人を割り込み、少子化対策は待ったなしの状況、さすがに自分たちの未来を考え、少子化問題にも本格的に取り組む姿勢を見せている。そのような流れの中で、我々は一人として失ってはならない小児達に対する薬物療法の安全性を支えることに、もっと真摯に向き合うべき時期を迎えているのではないかと考える。
小児期の薬物療法では、以前から小児適応が無い、小児剤形が無いなどの問題が継続していたが2010年から厚生労働省で開始した「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」などの効果的な運用によって添付文書上の小児適応が適正化され、近年その安全性が大きく向上している。しかしながら、小児薬物療法の適正化に係る問題は非常に広範囲に渡り、小児剤形の不足を含め未だに多くの問題を残している。安全性の確保についても多方面に問題が残されている。
薬物療法の安全性を検討するには、臨床研究等で安全で有効とされる治療域等を調査することが必要になる。しかしながら小児期は成人期と異なり一定の状態ではなく成人に至るまで連続的に成長・発達の変化を遂げる期間であり、年令によって体重・薬物動態・免疫機能、また薬物についての認知力なども経時的に変化して行く。患児の薬物療法に係る安全性を考える場合にも、その患児ごとに患児の年令・体重での標準データを活用して評価を行うべきであるが、基準となるデータが不十分で判断が出来ない場面に未だ多く直面する。薬物療法の基準が不明確なままで、医薬品安全を考えるのにはさすがに限界がある。
小児薬物療法認定薬剤師は少しずつ増えているとはいえ、例えば医薬品に含まれる成人には問題のない少量の添加剤の使用も、薬物代謝能が未熟な新生児には危険性が高いが、それを認識している新生児の薬物療法の知識を持つ薬剤師はまだ少ない。NICUやPICUで患児達に効果的な薬物療法を安全に行える薬剤師の今後の育成は大切な課題である。乳児の薬物被曝を考えると母親の授乳の影響に係る知識も必要だが、授乳婦の薬物療法に詳しい薬剤師もまだ不足している。高齢者が服用する医薬品でも、その孫である幼児が医薬品の誤飲によって救急センターに運ばれている現状を知らない薬剤師も多く、誤飲への注意喚起への対応は諸外国と比べ日本は遅れている。
本教育講演では、このように未だ我々が認識不十分な問題点と、その改善に向けた現状、活躍する薬剤師に係る情報を共有していきたい。
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